吉坊わさびなんでやねん4

1月12日の成人の日、柳家わさび師が来阪して桂吉坊師と共演する二人会、全5回の4回目だ。会場は前回の新世界ZAZAから、あべの近鉄のSPACE9に戻った。わさび師は中野で催されているワンコイン寄席で、このところ「明烏」を続けてかけておられるので、一席はこれではないかと予想しつつ、天王寺へ。というのも、前回かけられた「松曳き」がそのパターンだったのだ。

前日からわさび師はXで天候を気にする投稿をされていたが、早めの新幹線に乗って無事に到着され、定刻通りに開始。前回に続いてお二人以外の若手が開口一番を務められたのだが、これがどういうわけかよくお見掛けする桂雪鹿さん。定番のマナーモードの物まねで携帯電話の電源オフの注意をされて、ネタは「酒の粕」。いつも冒頭の物まねで感心するのだが、ネタに入っての語り口調も流れるように達者なもので、しっかり客席を温められた。

続いてわさび師登場。遊びという振りで、やっぱり「明烏」かなと思ったらその通り。客席に一人小学生くらいのお子さんがいたので「明烏」だったらどうするのだろうと勝手に心配していたのだが、結果的に滅茶苦茶ウケて隠微な要素は吹き飛んでしまったのであまり問題はなかったのではないかという気がする。
このネタは入船亭扇遊師が2001年に出されたCDで聴きこんでいて、数年前に東京で生でも聴いたし、昨年BSの落語研究会でも聴いて、そして何より昨年秋、文之助師との二人会で時空を超えるような体験をしているわけだが、わさび師の噺は同じネタでもこれほど振り幅があるものかと思わせる、爆笑系の「明烏」だった。例えば時次郎坊ちゃんのことを託された茶屋のおばさん、扇遊師はいい笑顔で、言外にわかってますよ、うまくやりますよと言う感じを匂わせてあまりしゃべりすぎないのだが、わさび師はこれでもかと顔を作って何度も口を開かせる。自分が吉原に連れてこられたとようやく気付いて帰らせてくれと哀願する時次郎も同様である。全身でそれぞれの感情を表す熱演だ。どちらかといえばニヤニヤしながら時々クスッと笑うネタだと思っていたが、ドッカンドッカンやろうと思えばできるネタなのだなと、大笑いしながら驚いた。

吉坊師は「不動坊」。「明烏」からのこの流れ、不思議なことに扇遊師のCDのカップリングと同じだ。今回は事前にお互いのネタをすり合わせしたら、二人とも一席目が長いネタで、バランスの悪い会になってしまったと吉坊師は仰っていたが、この厚みのある組み合わせをたっぷり聴かせていただけたのは非常に贅沢、とてもよかった。
このネタも多くの噺同様もともとは上方の作だが、江戸の落語としてしか聴いたことがないので、細部の違いを面白く聴いた。登場人物の名前が違うし、下げも異なる。幽霊役が不動坊と同業の講釈師で、ちゃんと名前がついているというのも違う。そしてやっぱり、東京の噺の方が、人物が皆おっちょこちょいで粗忽の度合いが強いような。

中入り後は客席から集めた「なんでやねん」を語るトークコーナーだが、今回は正月開催なので、お二人のそれぞれの正月の過ごし方も紹介された。
わさび師は八代目文楽の弟子で文楽亡き後のちに人間国宝となる五代目小さんの弟子に直った柳家小満ん師匠の弟子の柳家さん生師匠の弟子。文楽と小さんの芸を受け継ぐ江戸の保守本流である。吉坊師はやはり人間国宝である三代目米朝の高弟であり後継者と期待されながら惜しくも早逝した吉朝の弟子で、こちらも上方のサラブレッドと言えよう。
お二方とも、小さん、米朝の存命時は新年は集まっておられたそうだが、今ではそうした集まりもなく、わさび師はさん生師が故郷の富山に帰ってしまわれるので大師匠の小満ん師を訪ねて白ワインやコーヒーを嗜み、吉坊師は踊りの先生の新年会に顔を出すという。
九代入船亭扇橋のCDを聴くと、マクラで正月のお話しをされている。師匠である小さん宅を皮切りにあちこちの師匠のうちへご挨拶に回る。中でも林家正蔵(彦六)のところは牛めしをふるまってくれてこれが楽しみで。と、思わず牛すじを買ってきて煮込みたくなるすばらしい語り口だが、昨今ではこういう集まりはなくなってしまったのだろう。落語家に弟子入りしても、内弟子になる人は少ないそうだし。核家族化というか核一門化か。

吉坊師の二席目は、午年にちなんで「馬の田楽」。こういうネタ選び、本当にしっかりされているなあと、いつも感心させられる。そして、上手い。こんな子供いるなあと、圓生の「佐々木政談」を思い浮かべる。
しかし今日は、この後があまりにもエキセントリックで、色々なものが消し飛んだ。ただ、特に今回の吉坊師は、そもそもあまり弾けすぎないネタをあえて選んでおられるようにも思えたが。

そのトリのわさび師は自作の「独身皇帝」。独身貴族がこじらせ過ぎて皇帝にまでなってしまったということなのだろう。mixiで集まった女性に縁のない独身男4人がクリスマスにオフ会を開き、女性やカップルに悪態をつくのだが、なんだかんだで主人公は一人ぼっちになって本所の吾妻橋でイルミネーションを眺めながらやはりカップルなどに悪態をつき続け、そこにおじいちゃんに連れられた小さな女の子がやってきて、イルミネーションを楽しもうとしたところで大停電、イルミネーションが消えて真っ暗な中、悲しむ女の子に主人公は…。

考えると本当にろくでもない主人公なので、まあ、急に良い人になるのは変だとか、そんな展開にしてやることも無いんじゃないかとか、色々あるのだろうけれど、このビジュアルの前には全て吹き飛ぶのだ。このネタこそDon't think, feel.だ。

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