吉坊わさびなんでやねん3

 柳家わさび師が来阪し、桂吉坊師と行う二人会。わさび師言うところの全5回の3回目である。今回は会場があべの近鉄9階のSPACE9から、新世界ZAZA HOUSEに変更された。

開演、さて、今日はどちらからと思ったらわさび師、いや、後ろから吉坊師も出てこられて最初にトークをやるという。これまで中入りで行われていたのだが、わさび師によると、中入りでやるとお客様が落語に集中できないのではないかと思って…とのことだが、そんなこともないんだけれど、と思いつつ、こういうちょっと不思議なところに考えが及ぶのもわさび師らしい気がする。

しかし、毎回客席から集めた「なんでやねん」についてお二人が語るコーナーなのだが冒頭にやるという告知もなかったためか、前回はスケッチブック1ページいっぱいに書き込まれていた「なんでやねん」が4件しか集まっていなかった。おそらく次回は中入り後に戻るのだろう。

そしてもう一つイレギュラーなことがあり、鳴り物の助っ人で来られていた桂九寿玉さんが、たまたま「着物を持ってきていたから」という理由で、開口一番を担われた。ネタは金明竹。若手らしい元気のある高座であった。

そしてわさび師の一席目、松曳き。
これはもう、ネタ自体が爆笑ものなのだが、殿様と三太夫がふと我に返ったりボケたり、狂気もにじみ出て、わさび師の痩身、声と相俟って特に殿様は見事にはまり、これ以上ない突き抜けた粗忽ぶりだった。このところ東京でのワンコイン寄席で毎回松曳きをかけるという告知がX上であったけれど、その鍛錬が見事に開花したという感じだろうか?

続いて吉坊師の一席目は宿屋町。ホールの貸し時間を気にされてか、短く切り上げられるネタをとのこと。上方落語には旅の噺は多いけれど、例えばお伊勢参りの行きと帰り、あるいは北の大津へ回る噺は今も残っているけれど、お参りの場面の噺は残っていない。米朝によると単純に「面白くない」からだそうだ。で、今回は参宮の後、北へ向かって大津の宿場にやってきた場面。これはもう、清八と喜六のやりとりという上方落語の基本中の基本のようなものだから、きっちりと。

中入り後、わさび師の二席目なのだが、マクラに入る前に、オープニングのトークの際に写真を撮ってもらうのを忘れていたとのことで、突然撮影タイムが始まった。吉坊師も顔を出されてしばらくみんなスマホで写真を撮ったわけだが、中入りの終わりにまじめに電源を切っていた人が多かっただろうから、結構時間をとってしまったものと思われる。このあたりも、わさび師の不思議なところだ。

で、ネタは自作の出待ち。初めて聴いたが、なんというか個人的にすごくツボに入る話で、冒頭の頬杖をついた主人公が「太宰治研究会」だというところでいきなり持っていかれ、そのまま最後まで笑い通しだった。いつもそうだが自作は本当に堂に入っているというか、古典よりも危なげがないというか、いや、古典のほうが危なげがあるように見えてあれはある種のフラなのか、よくわからないけれど、兎に角今回は二席とも素晴らしい出来だったのではないか、柳家わさびを聴いたという満足感は非常に高かった。

しかし、開口一番があり、撮影タイムがあり、ホールの撤収時間は厳しく余裕がない。そんな危機的状況を見事に回収する吉坊師もまた見事だ。マクラ無しで質屋蔵。急いた感じもなく質屋の主従のやり取りをじっくりと聴かせてもらったが、この主人もちょっとエキセントリックで、こういうひねりの効いた変人は上方らしいなと、松曳きの主従と比べて思った。

次回は1月12日、あべの近鉄のSPACE9に会場が戻る。残り2回というのがちょっと寂しくなるような良い会だが、その後はどうなるのだろう。

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