東西若手落語家フェスティバルin貝塚市コスモスシアター

11月25日、時間帯までセレッソ大阪のホーム最終戦とまる被りしたが、貝塚市のコスモスシアターというホールへ、落語を聞きに行ってきた。

生で落語を聞くのは5月の浅草演芸ホール以来だ。

この会は、江戸と上方の噺家さんお二人ずつ集め、江戸深川資料館、天満天神繁盛亭、神戸新開地喜楽館などをサーキットしてきたもので、25日は貝塚、翌26日は愛媛県の松山での公演となっていた。

出演者は、発起人というか、この企画の中心人物であろう笑福亭たまさん―たまさんは貝塚市出身で、このコスモスシアターでは定期的に会を催しているようだ―に、上方からもう一人は女流の露の紫さん、東からは瀧川鯉朝師と入船亭遊京さん。この四方で全国を巡り、これに開口一番を加えての5席が演目だ。

たまさんについては10年近く前から注目していて、当時大阪で関わっていた紳士服の広告の仕事でモデルとして使えないかと考えつつその企画自体がぽしゃったのでかなわず、しかし、高座を聴いたことはなかった。

紫さんも初めて。こちらの勝手な印象で女流は苦手かもと思っており、少し不安。それ以前に、上方落語そのものにちょっと苦手意識がある。自分なりに分析しているのは、東京の古典落語に出てくる言葉は現代に生きていないので、話の中のものとして入ってくるのだが、上方落語の言葉は「方言」として今も生きているものが多いせいか、どうもガラが悪いだけに聞こえてくるというか、笑えないことがままある。米朝さんのはんなりした語り口なら気にならないのだが…。演者とネタの組み合わせによってはかなりつらいことがあるのだ。

鯉朝師は鯉昇師の一門の方だろうなというぐらいでやはり初めて。調べてみたら五代春風亭柳昇の弟子で芸歴三十年、真打になって十数年、若手落語家なのかとも思うがまあよかろう。

遊京さんは入船亭扇遊師の弟子で、扇遊師のどの会だったか、開口一番を務められた折に聴いたことがある。今回の目当ては遊京さんで、南大阪で入船亭の落語が聴けるというのは楽しみだと、チケットを取ったのだった。

たまさんと遊京さんとは同じ京都大学の落語研究会出身だが年が離れているので接点はなかったかもしれない。が、この企画の最終公演は遊京さんの出身地である愛媛で、主催はたまさんを愛媛に呼んで会を開いている「えひめ福笑会」とのことで、何かしらこのお二人の縁というのは深そうに思える。

開口一番は桂文枝一門の桂雪鹿さん。まずはスマートフォンのマナーモード、バイブレーションの声帯模写をしながら上演中は電源をお切りくださいと鑑賞マナーを訴える。これはなかなかに良かった。声帯模写がうまいので芸として成り立っている。

それから、地方公演ということもあってか皆さんマクラで開催地のことに触れるわけだが、貝塚市というのは大阪府の南部、「だんじり」で有名な岸和田の一つ南、関西国際空港の少し北に位置する人口8万人ほどの小さな市だ。大阪湾に面しており、南海電鉄南海線とJR阪和線が通っている。昔はバレーボールの名門実業団チーム「ニチボー貝塚」があって、市内のショッピングセンターで日本代表選手を見かけるようなこともあったが、それも今はなく、大型の商業施設も過去にはあったが次々と無くなり、と、衰退気味のまちではあるが、海と山が近くのんびりしたところで、ちょっと時間と電車賃がかかりすぎる気はするが、大阪のベッドタウンとしては悪くないと思う。

で、ほかの演者の方々は大阪市方面から南下して貝塚にやってこられるのだが、大阪府阪南市出身、在住の雪鹿さんは自分だけは南から来ましたということで阪南にからめた話から、新聞の話題につないで「阿弥陀池」へ。

このネタは三代目米朝のCDで聴きなじんでいるせいかちょっと全体に走りすぎにも聞こえたが、いい感じに会場が温まったと感じた。

次いで、目当ての遊京さん。

全国あちこちへ行かせていただける商売で、と、保育園やら少年院やらでの高座の話をして、ネタは「締め込み」。少年院のマクラは東京で聴いたような気もする。

夫婦喧嘩がヒートアップしていく様を表情豊かに丁寧に描き、縁の下に隠れていた泥棒が出てくる下りもやはり丁寧に解説しながら、端正ともいうべき話っぷりで、上方の雪鹿さんの後だけにそれがなおさら際立った。入船亭の芸風というのか、えらい角度に眉を吊り上げたりすごい顔をして見せたりと、けして淡々とやっているわけではないのにすっきりとしてくどくないのは何故だろう。

そして、以前生で拝見した時よりもちょっと貫禄が出てきたというか、そんな気もした。

鯉朝師は貝塚駅でタクシーを10分待ったというくすぐり―本当にローカルな何もない駅前だから仕方がない―から、上方に来たので江戸らしい落語をと思ったが一つしかなかったと、「宮戸川」(ただし草食男子と肉食女子という改変版)。

笑える話だったが改変のためか新作を聴いているような雰囲気で、遊京さんが早とちりな職人と気の強いおかみさんと人がいいんだか悪いんだかわからない泥棒という、江戸の話らしいネタをさりげなくやった後だけに、ちょっと「江戸らしい落語」には聞こえなかったかもしれない。

仲入りを挟んで露の紫さん。私は浅草で蝶花楼桃花さんを聴いて全く合わず、ネット上でしか聞いていないが話題の桂二葉さんもダメだったので、女流とは相性が悪いのかと思って不安だったのだが、紫さんは素直に面白かった。

JRの大阪環状線から「新今宮」駅で南海に乗り換えて、という話から、大阪でも南に来ると強烈な人がいますねと、大阪のおばちゃんのあるあるネタで盛り上げたりしながら、「鉄砲を言う」という古い言い回しの解説へ。昔の鉄砲は精度が低くて当たらないことから、「いい加減なことを言う」という意である。千に三つしか本当のことを言わない、いわゆる「せんみつ」も鉄砲からきていると。一方大阪では“あたる”フグのことも鉄砲と言いますが、という振りから「狼講釈」。人生で大阪に住んでいる期間が一番長いのに上方落語はあまり聞いてこなかったので初めて聞くネタだ。「鉄砲」で下げるので、マクラはその振りである。

それにしても紫さん、大阪のお姉さんらしい歯切れよく肝の座った話っぷりで、ちょっと、往年の上方の女流漫才の系譜を思い出すようなところがあり、楽しく聞けたのだが、もしかすると私が女流の噺家さんに感じていた苦手意識は、声の高さによるものなのではないかと感じた。高いのがダメなのではないか。声の高さなんて、男性の噺家さんではついぞ気になったことがないファクターだが…。

そしてトリはたまさんである。

たまさんのマクラも大阪のあるあるネタで、関西の鉄道沿線ごとの違い―阪急宝塚線沿線の人は落語は米朝一門の笑えない落語しか聞かないというあたりで、隣で家内が受けていた―だったり、貝塚、南大阪を自虐的にいじったり―とにかく会場が沸いた。大阪人は自虐が大好きなのかもしれない―しつつ、和歌山に近い貝塚あたりになると「ざじずぜそ」と「だぢづでど」の区別がつかない者がクラスに3人ぐらいいますねえという、この絶妙な前振りから「鰍沢」である。それも、和歌山の人が身延山にお参りに行って雪道で遭難しかけて大阪新町の元大夫に出会って、という、上方版である。

蜃気楼龍玉さんの高座で生で聴き、Youtubeでも聴いているネタだが、江戸の人が山中で吉原の元花魁に出会う話で、上方のネタではないように思う。何しろ、富士川にある鰍沢へ訪れるには関西は遠すぎる。あれ?と思いつつ、しかしサゲまですぐに想像できた。元々のサゲが、あれだから…。

終演後に検索すると、この上方版の鰍沢は、たまさんが高座にかけている例しか出てこない。サゲがちょうど和歌山訛そのものではないかというところに目を付けたたまさんが独自に改変したのだろうか?

ということで、上方落語も女流落語も確りと楽しめた良い会だった。

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